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苫鵡の達人「金田さんのつくったハスカップジャム」2000年夏発行
発行:アルファリゾート・トマム 編集人:山本敬介 文:松原 香

■笑顔の素敵な金田さん大いに語る。
 トマムの隣町、新得町の金田ベリー園。2町6反(約7800坪)の果樹園には3000本ものハスカップを中心にカーランツ、グーズベリー、ラズベリー、コクワやスモモなどあらゆる実のなる木が植えられている。あたり一面びっしりとタンポポが咲き乱れているのが象徴的、それもそのはず、ここでは一切除草剤を使っていないのだ。このベリー園を営むのが金田周一さん、亥年生まれの64才。ベリーを手掛けて16年になる。本当に人懐っこい笑顔でいつも迎えてくれる金田さん。そしていつも果樹園でハスカップへの熱い想いを本当に楽しそうな笑顔で語ってくれる。今回はトマムでジャムの取引きを本格的に開始するにあたり、金田さんにハスカップに託した夢や育て方の苦労を伺ってみた。

 さて、金田さんの朝は早い。午前3時起床、「ぽやぽやっと明るくなってきた」頃には自宅から4キロ離れたベリー園へと向かう。6月末から7月にかけてハスカップの収穫が始まる。前日収穫した実を発送用に箱詰めすると、あとはひたすら収穫作業だ。最盛期には町のおばさん達を中心に、10名ほどの出面さんを雇っている。何しろ3000本ある樹々にはムラサキ色のハスカップの実がびっしりとなるのだ。しかも実は丁寧に一粒ずつ摘むしか収穫方法はない。たった1キロ摘むのに、素人では1時間、ベテランの出面さんでも30分はかかる。収穫した実は大きな鍛冶屋のフイゴで葉やへたを吹き飛ばしてきれいにしてから、貯蔵庫へ。週に1度は半日ほどかけてジャムを作る。夢中で仕事をしていると時間を忘れる。そして気が付くと夜は更け、家に戻って床につくのは夜中の12時を回ることさえあるという。しかも金田さん、この広大な畑をやりくりしながら、9時から午後2時までは郵便配達の請負い仕事に車を走らせるのだ。(注:2000年当時。現在は退職されてベリー一本でやられています)全く人間はだらだらとしなければ、たくさんの事が出来るのだなあと、背筋がシャンと伸びる思いで聞いていた。「動けなくなったら、その時まで」と日々全力疾走。ちょっとはにかんで笑う金田さんにはバイタリティ溢れる若者となんら変わらない自信と明日が広がっている。「これから、もうひと花咲かせようと思ってさ」。
金田さんが苦労してつくった初代のラベル
■太陽と金田さんとミミズが育てた本物印のハスカップジャム


 もうひと花とは5年前から手掛けているハスカップの無添加ジャムのことだ。有機栽培で育てたハスカップの本物の味を一人でも多くの人達に伝えていこう、と試作を重ね、ラベルや箱にもこだわった本当に納得のゆくジャムがようやくできあがった。その美味しさには理由がある。実に手間ヒマかけたハスカップ栽培のストーリーがあるのだ。金田さんがベリー園を始めたのが1984年の秋。元々は米作農家だったが、余剰生産の煽りで豆類の畑作へ転換。しかし、水田跡の湿地は豆作りには向かず、模索状態の時に耳にしたのがハスカップだった。「変わった事はせんでくれや」という農協の反対もあったが直感が働いた。当時まだ珍しかったハスカップは破格のキロ単価で取引きされていた。今後半価になっても「これならいける!」と思った。初めの年は隠れる様にトウキビ畑の陰で500本の苗木を植えた。翌年にはまた500本。苗木を買ったのはこの2年だけで後は挿し木をして増やしていった。「めんこい」と表現する背丈10センチにも満たない挿し木からほとんどを育てたのだ。この道で食べてゆくなら「一本道は危ない」と他のベリー類にも目を向けた。
 そして、何といっても基本は土作りにある。鶏糞・牛糞・馬糞に米糠、大豆・菜種油、そして土壌菌を混ぜて発酵させた金田ブレンドの特別な堆肥を使っているのだ。これにミミズが発生してさらに良い堆肥になる。畑中どこを掘ってもミミズの多いこと!当然、除草剤も化学肥料も使わない。ハスカップが持つ本来の甘味が失われてしまうからだ。それば  かりではない。ハスカップはカルシウム、リン、鉄分、ビタミンA・Cが豊富で「不老長寿の実」とも言われているが、これらの成分が除草剤や化学肥料の使用でゼロになってしまうのだという。そして、除草剤を使わないもう1つの理由は、「木作り」にある。ハスカップの新しい枝は木の根本から生えるが、除草剤をやるとこれが全部ダメになる。新しい枝を伸ばして、剪定や更新を繰り返すから、常に元気の良い枝がおいしい実を付けるという訳。まさに自然の摂理にしたがった丁寧な土作り、木作りができて初めて美味しいハスカップの実が生まれるのである。ハスカップの父は金田さん、たわわになったハスカップの実は金田さんの子供たちだ。
 この実の美味しさを、1年中味わってもらえる金田ベリー園の手造りジャムは、砂糖を極力おさえた無添加のジャム。このジャムにはなんと7種類ものハスカップの実が入っているのだ。それぞれの微妙な持ち味が程よく混じり合い、酸味のなかに独特の甘味がある。除草剤や化学肥料を使って育てた実をペクチンやら防腐剤やら使って作ったジャムとは訳が違う、本当の本物。まさしく金田さんそのもののジャムである。取材後、いただいたジャムを自分の家で子供達に出したら、ふだんはあまりジャムを食べない3歳の下の子も、「おいしいおいしい」と、パクパク食べた。たしかに能書きなどわからなくても、おいしいものはおいしい。子供の無垢な舌は正直だ。皆さんも舌の上で、是非とも試してみてください。太陽と金田さんとミミズが育てた絶妙な味がするはずです。